実施時期: 2026.04 – 2026.09(現地調査・試作・ワークショップ)
企画・実施: Lemu Harmony
現地パートナー: Wilfrid Degbo 氏(Nansewe NGO)
実施地域: アジョウン村(Adjohoun, Benin)
参加者: アジョウン村の若者・住民
ベナンの村に、手づくりの履き物を
西アフリカ・ベナン南部、ウエメ川の流域に広がる農村、アジョウン(Adjohoun)。
この村では、子どもだけでなく、大人も裸足で過ごす姿が珍しくありません。
その背景には、経済的な事情がありました。村で買える安価なゴム草履は、1〜2か月ほどで壊れてしまいます。けれど、すぐに新しいものを買うことはできず、長い間、裸足で過ごすことになります。
けがや感染症、足の痛み。裸足の生活には、さまざまなリスクがあります。
「何か、自分たちで安く、簡単につくれる履き物はないかな?」
そんな想いが、このプロジェクトのきっかけになりました。
ヒントは、メキシコの山岳地帯の履き物
私が履き物について考えていたとき、大切にしていたのは、できるだけ足や身体に良い履き物であることでした。
足のサイズに合ったものを選べることはもちろん、足指もしっかり使えること。そして、できるだけ裸足に近い感覚を残すこと。
足指で地面をつかむ感覚を活かしながら、裸足で歩くことの良さもできるだけ残したい。最初に思い浮かんだのは地下足袋でした。
ところが、実際につくろうとすると、型紙や縫製など、思っていた以上に複雑です。
悩んでいた私に、知人が教えてくれたのが「ワラーチ(huarache)」でした。
メキシコの山岳地帯で生まれたシンプルな履き物で、今ではランニングやウォーキングを楽しむ人たちに愛用されています。
見た目はとてもシンプルで、底も薄いのですが、紐で足にしっかりフィットさせるため、足指も使いやすく、足本来の感覚を活かしやすい履き物です。
構造もシンプルで、自分の足に合わせてつくることができます。
「これなら、ベナンの人たちも自分たちでつくれるかもしれない」
そう考えたのが、始まりでした。
現地調査でパートナーのウィルさんが村長や青年団の会長に話すと、とても関心を持ってくれました。

ベナンの暮らしに合う形を、一から考える
日本ではすぐに手に入るゴムシートやパラコードも、ベナンの農村ではなかなか手に入りません。
そこで、材料から考え直しました。
安くつくれること。
材料が入手しやすいこと。
壊れにくいこと。
つくりやすいこと。
そして、もうひとつ。おしゃれを楽しめること。
ベナンの人たちはおしゃれが大好きです。なので、ただ「安くて履ければいい」というものではなく、自分らしく楽しめる履き物にしたいと考えました。
底には廃タイヤ、紐には服づくりで出る布の端切れを使えば、ほとんどコストをかけずにつくることができます。
布の紐は補強になるだけでなく、色や柄を選んで、足元を自由に飾ることもできます。
さらに、壊れてしまったゴム草履を布で補強・修理する方法も、あわせて伝えることにしました。
制作の手順は、資料や動画を調べながら一つひとつ確認し、マニュアルにまとめました。
ウィルさんがコトヌーで試作を重ね、それを村でのワークショップにつなげました。
「自分でつくる」喜び
最初のワークショップに集まってくれたのは、村から選ばれた20歳前後の若者10人。若いお母さんたちも含まれていました。
紙に足形をとり、ゴムシートを切り、4か所に穴を開けて布の紐を通します。
早くできた人は、まだ作業中の仲間を手伝います。
翌週は、廃タイヤにも挑戦しました。
入手しやすいバイクタイヤは、丸みがあるため形を整えるのに少し手間がかかります。それでも、みんなで工夫しながら、形にしていきました。
大きな自動車タイヤを探してきて、一人で一足をつくり上げた青年もいました。

2回のワークショップを終え、迎えた閉会式。
若者やお母さんたちは、つくったワラーチを嬉しそうに披露してくれました。
服とお揃いの布を使ったもの。
布でつくった花を飾ったもの。
子ども用の小さなもの。
いろいろ工夫が凝らされていました。
「教会や市場に履いていくと、『素敵だね』とみんなが褒めてくれました」と、嬉しそうに話す姿が印象的でした。
最初は緊張した様子で集まってきた村人たちも、ワークショップが進むにつれて、少しずつ笑顔が増えていきました。
履き物をつくることが、いつの間にか、人と人がつながり、笑顔が生まれる時間になっていました。



渡されたバトン
ワークショップの最後、参加してくれた若者やお母さんたちは何度も感謝を言葉にし、こんな歌までつくって歌ってくれました。
I love this group of Mikako.
I want to be part of this group endlessly.
そして、青年団の会長さんが、
「自分たちの力で、これからもワラーチをつくり、そのつくり方を村中に広めていきます」
そう話してくれました。その言葉が、何より嬉しかったです。
私たちが届けたかったのは、完成した履き物ではなく、自分たちでつくり、工夫し、次の人へ伝えていける知恵と方法です。
今回、私たちが負担したのは、試作とワークショップで使う材料や工具の費用、そしてウィルさんへの指導料です。大きな金額ではありません。
用意した材料がなくなったら、その先は自分たちで補充してもらいます。
最初の一歩を支え、その先は自分たちの力で歩いていく。
ひとつの履き物から始まった活動が、いま、村の中へ少しずつ広がろうとしています。

想いがつながり、未来をつくる
毎週、コトヌーからバイクと船を使い、2時間以上かけて村へ通い、この活動を現地で進めてくれたウィルさん。
私にワラーチを教えてくれた知人。
そして、つくることを楽しみ、次の人へ伝えてくれる村の皆さん。
一人の「こうしたい」という想いが、人から人へ伝わり、やがてみんなの知恵になっていく。
川沿いの静かな農村に、ひとつの光の種を蒔くことができました。
ここから、この村の新しい物語が始まっていくことでしょう。

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